安彦良和『虹色のトロツキー』

ふと安彦良和『虹色のトロツキー』が読みたくなって本棚の奥から取り出す。満州・上海を舞台にした物語だが、石原莞爾甘粕正彦、辻正信をはじめとして当時大陸で活躍!?した人物も大勢登場する。

ウムボルトという日本人とモンゴル人の混血児が主人公のこの物語は(偽の)トロツキーを探し出すという主旋律に沿って展開されるが、他民族がひしめき合う満州において、またユダヤ人の租界がある上海において、陸軍の思惑やユダヤ人社会の思惑、またコミンテルンや、中国共産党など、様々な利害と人間関係が絡んで壮大なスケールで描かれる傑作である。

ところで、この漫画で初めて知ったのが建国大学である。

建国大学は、五族協和が持論だった石原莞爾の理念に由来し、自由な学風だった。五族(漢・満・蒙・朝・日)の青年が学び、教授陣には鮑明鈴・蘚益信ら中国の開明派、朝鮮独立運動家の崔南善、日本からは作田荘一ら、そして合気道の開祖(!)植芝盛平がいる。

尤も建国大学でも公用!?語は日本語であったから、そこでの五族協和も、やはり日本が他の民族を指導するという図式を印していた。

安彦氏の歴史を題材にした著作には日本の古代史と神話とを接合した『ナムジ』がある。これは読み応えのある著作だが、『イエス』はちょっと失敗しているように思える。

マルコの福音書の末尾、イエスが葬られた墓を見に来たマリアたちに、ガリラヤへ行けと伝える白い衣をまとった人物を主人公にしたために、イエスそのものがあまり描かれていないからだ。

ちなみにオリジナルのマルコ福音書は、マリアたちが墓を見に行き、そこでイエスが復活したことを聞かされるが、彼女たちは帰って、誰にもそのことを知らせなかった。なぜなら、恐ろしかったからであるという次第。

ところが、ルカやマタイの福音書では、彼女らがすぐ弟子たちにイエス復活を知らせたり、生身のイエスに出会ったり(!)している。さすがにそれは護教的過ぎると思うが。。。