お水

11月。今年も残すところあと2ヶ月ながら、実感が湧かない。しかし寒い地方で徐々に観られつつある紅葉の美しい景色でも観れば、実感が湧いてくるかもしれない。

さて寝しなに読んでいる高橋裕『都市と水』(岩波新書)で浄水場の処理方法について述べているくだりがある。

美味しい水は河川か湖沼の水質をよくすることが正攻法であると断った上で、日本の浄水場での処理方法は戦前と戦後で大きく違うようだ。

わが国は明治初期にイギリス人バートンらによる上水道事業の指導を受け、以来もっぱらヨーロッパ方式の緩速濾過法を採用し、水源も汚れていなかったため、浄水場で塩素を注入することは、水源に伝染病が流行した場合くらいのもので、ほとんど利用せず、残留塩素もなく一般の家庭の蛇口から出る水がカルキ臭いということもなかった。

一見よいことづくめだが、しかしイギリスと違って日本は洪水にしばしば見舞われる。濁った場合の処理方法として、凝集剤を入れて沈殿物を落としたらしいが、薬品を使うのだったら、「むしろ薬品沈殿が必須な急速濾過法にした方がよいという考えは戦前からもあった」らしい。

これが戦後、「進駐軍の命令で主として塩素消毒によるアメリカ方式に転換させられた」(もちろん高度経済成長期の水需要に対応するという側面もあった)。

マッカーサー司令部は水道管末で残留塩素0.4mg/l以上を検出するように厳しく指導したらしく、東京では途中での塩素の消費を考慮して浄水場を出る時点で2.0mg/l以上を目標としたものの、1952年からは0.1mg/lになったらしい。

水道法施行規則の第17条第3項では、

給水栓における水が、遊離残留塩素を0.1mg/l(結合残留塩素の場合は、0.4mg/l)以上保持するように塩素消毒をすること。ただし、供給する水が病原生物に著しく汚染されるおそれがある場合又は病原生物に汚染されたことを疑わせるような生物若しくは物質を多量に含むおそれがある場合の給水栓における水の遊離残留塩素は、0.2mg/l(結合残留塩素の場合は、1.5mg/l)以上とする。

これが現状である。塩素処理の過程で生成される有機塩素化合物クロロホルム発癌性物質が認められたという話もあり、また1950年代に水道管にアスベスト管が用いられ、1990年頃でも全国の水道管の2割がそうだったというから恐ろしい話である。

イギリス式にせよ、アメリカ式にせよ、日本の水事情に即したものではなかったから、その点、高度浄水処理などを用いつつ、緩速濾過法によって(場所の確保が問題だが)、安全で美味しいお水の供給がのぞまれる。