ラディカルな功利主義の復権

『統治と功利 功利主義リベラリズムの擁護』を戴く。

数多の批判が功利主義に浴びせられる中、功利主義の様々なモデルを腑分けし、センが纏めた帰結主義、厚生主義、総和主義の3点について詳細な検討を加えつつ、ラディカルな現代の功利主義復権を試みた書。

「.....統治功利主義は、政治社会に於ける配慮の共同体の範囲を頑迷にも家族共同体へと差し戻そうとする現代のトーリたる右派と、その範囲を固陋にも個人に保ち続けようとする現代のウイッグたる左派の双方を共に退け、快苦を経験する意識主体としての人間を「人格」の圧制から――哲学的急進派が個人を家父長的圧制から解放しようとしたのと同様に――解放しようとする現代の急進派という名誉ある地位を占めるであろう。」(279頁)

リベラルの多くが重視した自律という価値をも退け、統治技術の高度化を基礎にして統治のmisruleを統制しようとする現代功利主義の可能性の一端を開陳している刺激的な内容で、現代において功利主義を考える上で避けては通れない内容になっている。