丸山

少し時間がかかったものの苅部直『丸山眞男』を読了。『光の領国』を彷彿とさせる雰囲気で、丸山の「肖像」を見事に浮き上がらせていると思う。

丸山への見方が少し変わったのは、例えばこれまで反骨精神の新聞人というイメージで語られることが多かった父丸山幹治が或る意味ではいい加減な人間だったことが丸山のジャーナリズムへの不信を醸成したという指摘。

また長谷川如是閑から井上亀六まで、いわゆる左右の人物が入り乱れた家庭環境にあったことや、昭和天皇への親近感のようなものを抱いていたことなどを知ると、「敗戦後、思い悩んだ揚句、私は天皇制が日本人の自由な人格形成―自らの良心に従って判断し行動し、その結果にたいして自ら責任を負う人間、つまり「甘え」に依存するのと反対の行動様式をもった人間類型の形成―にとって致命的な障害をなしているという帰結にようやく到達したのである。あの論文を原稿紙に書きつけながら、私は『これは学問的論文だ。したがって天皇および皇室に触れる文字にも敬語を用いる必要はないのだ』ということをいくたびも自分の心にいいきかせた。のちの人の目には私の『思想』の当然の発露と映じるかもしれない論文の一行一行が、私にとってはつい昨日までの自分に対する必死の説得だったのである」という晩年の言葉がまた異なった色彩の下に立ち現われてくる。