幻のヴァイオリニスト....

今夜、また渡辺茂夫さんのCD『神童<幻のヴァイオリニスト>』で彼のヴァイオリンを聴く。CD1枚目の4曲目「アヴェ・マリア」。母なるものへの温かい愛情までをも感じさせるこの叙情豊かな演奏が本当に13歳によるものか耳を疑う。

正直、この「アヴェ・マリア」はヴァイオリンで演奏されるものでは私の中ではベストだ。渡辺茂夫13歳の演奏を聴いたハイフェッツが「25年来の感動だ」と言ったのも頷ける。

この賛辞を送ったハイフェッツが帝国ホテルの一室で聴いたのは、チャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲とクライスラーの中国の太鼓。中国の太鼓は5曲目にある。

軽快なピアノにのって、中国の五音階的な旋律を軽妙に弾くこの曲も、本当に13歳なのかと驚くばかり。若さは感じるものの、すっかり円熟した演奏家による演奏のようだ。

この点、先日聴いた五嶋龍『Ryu Goto』は車の中で聴いた限りでは上手いなと思っていたし、ヴァイオリンを弾くのが楽しい様子が伝わってきた。

けれども自宅のステレオで聴くと、CDを出すのは早すぎたのではないかと思われてしまう。技術は高い。しかしどうも荒が目立つ。曲がどうもこなれていないのである。

JRの宣伝などのメディア戦略で有名にした上で、(不十分な)アルバムを出して売れ行きをよくするという商業主義では、彼が可哀相に思われる。

彼は今後が楽しみな演奏家だから、所属事務所の問題もあるが、自分で納得してからアルバムを世に問うようにしてもらいたいと願うのは酷だろうか。