朝茶事


 昨年の茶事の返礼ということで、朝茶事に招かれた。しかもお盆の季節でもあるので、亡くなった方の供養をするお茶湯もご一緒させていただいた。

 午前5時、千葉にあるその方のお宅に着くと、玄関には打ち水がしてあり、そのまま2階に上がり、身支度をする。

 最初のお茶湯では、静謐な雰囲気の中、お点前が進み、お床に飾られている遺影にお茶とお菓子が捧げられ、厳粛な気持ちになる。

 一旦席を出て寄付に進む。ここから正客になる。「洗心」という御軸がかかった寄付。旧暦では水無月だから、祓えの意味も感じつつ、本席に進む前に俗世間にまみれた心を洗おうと思う。全員が寄付に進むと、半東さんが汲み出しを運んでくれる。白湯のまろやかな味にホッと一息つく。

 「外腰掛でお待ちを」の声がかかり、寄付を出て、庭外に出る。ご亭主が蹲に水を注ぎ、挨拶となる。

 本席に入ると、手入れの行き届いた肌の綺麗なお釜やお棚、円想のお軸が出迎えてくれる。筆は「紫野○○」(あれ、名前を失念)。

 炭手前に出てきた蓮の花弁の御香合が端整な雰囲気でよい。

 一汁二菜の精進料理の懐石では、炊き立ての美味しいご飯にご亭主自慢のお味噌汁の濃厚なお味を堪能する。この味噌汁、数日に込んでコクを出すのだそうだ。

 お向こうは大徳寺麩と大和芋のすりおろしという初めての一品。聞けば、精進料理などでは定番のメニューだとか。不思議な食感と粘り気の割りに淡白なお味に驚く。

 煮物碗には、ご亭主が吉兆に特別注文したがんもどきに椎茸などが添えられ、お箸で割ると、しっかりした味のユリ根、銀杏などが出てきて、それを昆布、椎茸、大豆のお出汁が柔らかく包む一品。美味!
 
 預け鉢、強肴には、よく煮られた冬瓜がふんわりと柔らかくて美味しく、水屋にいる方がねられたゴマ豆腐は胡麻の風味が楽しめ、
ぬか漬けの泉州の水茄子は瑞々しくて甘くて柔らか!

 箸休めはじゅんさいに茗荷の細切り。夏の暑さに清涼感を感じさせる一品で、八寸には青唐、蓮根の練り物揚げ、昆布と茸。これがまた天狗舞純生純米吟醸酒によく合い、杯が進む。。。

 最後に主菓子。なんと京都麩嘉から特別に取り寄せられた麩菓子。最初よもぎかなと思ったら、青海苔の風味だとのことで、さすが上手に作っているお菓子だなと感嘆する。

 中立ちの後、本席は池田瓢阿作の宗旦写しの渋い耳付竹籠花入に豪快に生けられたお花のお席に変わる。気分一新。

 浩明老師の茶杓で、古薩摩の蝋燭茶入のお茶を丁寧に掬い、煤竹の茶筌で丁寧にねられたほ里つの美味しいお濃茶を覚入の小ぶりで可愛らしい樂茶碗で戴く。裏千家では樂茶碗で戴く際、袱紗関係のものを使わないが、見た目樂には見えなかったので、古袱紗を用いていただく。苦味も美味な濃茶だった。
 
 朝茶の決まりで続き薄となり、瓢箪形の餡菓子、氷菓子、生干菓子、饅頭を戴き、表千家らしい泡をあまりたてない薄茶を戴く。これも美味。

 朝の7時前からたっぷり日本酒を戴くのは初めての経験だが、朝の清々しい雰囲気の中、心が洗われるようだった。小鳥のさえずりや新鮮な空気の中でお茶事を体験するのはよい。

 また何と言っても、御連客や亭主方のお人柄があってこその、意味あるお茶事だと改めて感じた今日の朝茶事であった。