お茶のこと

父の友人で数学者にして鍼医者であり、インドの論理学を研究していた方のお宅にお茶事に招かれたのが直接のきっかけとなり、お茶を初めて9年が経つ。

最初の5年間は家元の短期講習会に出たことがあるものの、基本的に「学校茶道」だったので、お点前を極めることが真髄と思い、調和した心技体、流麗で無駄のない所作、禅的境地が理想とするお点前の姿だった。

大学の茶道部という枠から出て見ると、自由奔放にお茶をされている方がたくさんいて、お茶の世界の奥深さ、広大さに呆然とした。

お茶には、茶や水のこと、湯加減、茶を点てる道具としての漆器、陶器、磁器のこと、茶を点てる場である茶室の設え、銘木、御香、床を飾る花、掛け軸、禅語などなど、なんと多くの知るべきことがあるのだろう。

お茶事で懐石とお酒を戴いてからの濃茶の味わいにはなんとも言えないものがあるが、「茶の湯とはただ湯を沸かし茶を点てて 飲むばかりなるもとを知るべし」という言葉の背景には恐ろしく深遠な世界が広がっている。

こうした中、今、細々ながら、お茶を続けていられるのには、これまで出会った多くの方々の配慮がある。お茶事や勉強会に招いて下さったり、不躾な質問にも親切に対応して下さったり、素晴らしいお茶人さんに囲まれていることを実感する。

そうした方々の表情は実に生き生きとしていて、人として輝いている。お茶の世界にはそうではない、実に俗的なことも横行しているらしいが、そうした世界とは距離を置くことができるのは有り難いことだ。

人とのご縁に改めて感謝を感じる秋の夜長.....。