広島.....歴史問題

広島・長崎への原爆投下から60年が経とうとしている。

いかなる悲劇であろうとも、その歴史的記憶は長年月のうちに薄れてくる。日本各地で採択か不採択かで論議を呼んでいる「つくる会」の歴史教科書がそのよい(悪い)例である。

つくる会」の教科書がなぜ問題なのか。私はあの教科書(最近の版は見ていないが)が「相対化」と「主観化」という点で重大な問題を抱えていると考える。

「相対化」は「ゴールドハーゲン論争」でも重要な論点となったが、犠牲者の数で様々な事例を比較し、当の出来事の問題性を曖昧にする。例えば、南京大虐殺は被害者の実数がどうであれ、ナチスユダヤ人虐殺やスターリンの虐殺に比べれば、たいした事件ではないといった形で語られる。

「主観化」は決定論的立場に立ち、行為者の動機や苦難に焦点を当て、道徳的問題を回避する。日本兵に関する様々な苦難や美談を語り、戦争という問題を矮小化することに作用する。

そのようなお膳立ての上に「国民化」が志向され、愛国心の必要性が叫ばれる。しかしベンサムに倣って言えば、愛国心は戦争の動機付けでしかなく、無用なものである。

まったく無用なことを殊更重要なことのように言い立てるのが「つくる会」の基本路線である。むろん、歴史をある種の物語として、子どもたちが楽しく学べるように工夫した点は大いに評価される。

しかしその内容はアジア諸国に日本に対する多大な不信感・不快感を与えただけであるし、歴史は面白おかしいストーリーではない。近年の歴史哲学においては「歴史の物語り論」があるが、これは歴史的出来事に関する意味付与作用としてのナラティヴであって、イデオロギー的に潤色した物語(ストーリー)を「正史」と語ることではない。

国民に愛国心を!と主張したり、ニートや引きこもりといった最近の若者の道徳的腐敗を嘆く人々が「つくる会」の路線に追随しているが、政治や経済界での巨大な「腐敗」という最重要問題から目をそらして、フリーターといった瑣末な問題に目くじらを立てるのは欺瞞でしかない。

ところが欺瞞が欺瞞として意識されないのが昨今の流行となっている。アジアの人々に配慮すると言い放ちつつ、靖国参拝がなぜアジアの人々にとって問題なのか理解できないと放言して首相を続けられる世の中である。

このような政治状況に幻滅して人々が政治から離れれば離れるほど、これ幸いと政治腐敗が加速度的に進行する.....。この悪循環を断ち切るのは容易ではない。

その点、今日の河野洋平氏のスピーチはなかなかよかった。

碑にある『過ちは繰り返しませぬから』の過ちには2つの意味があり、1つは日本がアジアを侵略したこと、もう1つは人類が人類に対して原爆を使用したことと述べている。

某親友が最近よく言うことだが、あの世代の自民党員は戦争の問題については的確な判断能力を持っている(他の様々な問題は置いておくとして)。

そういえば、丸山眞男が1950年代に残した録音に「原爆は毎日落ちているんじゃないか」というものがある。原爆の放射線を浴びた人々が日々それに苦しめられているという悲惨さを表現したものである。呉に務めていた丸山は原爆投下後数日のうちに広島に赴いて惨状を目の当たりにしている。被爆者でもあった彼の言葉には真実、心の底からの深い叫びが伴っていた。

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さて、夜は、知り合いに誘われて、厚木の花火大会へ。川が部分的に堰き止められ、会場の河原は大勢の見物客で埋め尽くされている。

今夏初めての花火だが、お盆の季節に見る花火は世の無常を象徴するかのように、儚くも美しい。

ソニーと日産がそれぞれ打ち上げた花火は、かつての玉屋、鍵屋の争いを見るような思いだった。リズムと派手さで日産に軍配。

また厚木は鮎で有名らしいことを初めて知る。鮎の塩焼きに行列が出来ていたのには驚いた(そもそも今回の花火大会も鮎祭りの一環だそうだ)。
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以下は某MLで流れていた情報について。

戦後アジアでBC級戦犯がどのような扱いを受けたかは、彼らが与えた被害と同様、想像に絶するが、中国はその点「罪を憎んで人を憎まず」を徹底させた。

戦犯の者に己が犯した罪を書き綴るという形で徹底的に白状させ、時には肉親を殺された被害者からの罵倒を直接浴びせることで、罪の自覚を喚起させるという手法がとられた。映画『ラスト・エンペラー』で溥儀が戦前戦中の自身の心情や行状を書き綴らされている場面がまさにそれである。

映画はおそらくそうした点に焦点を合わせているのだろう。ただ中国からの帰朝者に対して、丸山が書き残した言葉は冷徹なようだが、必要な視点である。

「最近の新中国からの帰朝者のベタボレ方にはやはり精神の弱さを見ないわけにはいかない。どうして明のなかに暗を見、逆に暗のなかに明を見るというdialetischな見方ができないのか。同じホレるにしても、あまりにan sichなホレ方だ」(『自己内対話』127頁)

■□■□■□■□■試写会のお知らせ!■□■□■□■□■

    『教えられなかった戦争〜中国編』
                 -侵略からの解放・革命-

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◆高岩仁監督からのメッセージ
日本の敗戦時、他の国に捕らえられた戦犯は971名が死刑判決を
受けたのに対し、中国では、一人も死刑や無期懲役者はいません。
日本が侵略した国の中で、最も多くの人を殺し、破壊し、奪った
中国の日本人戦犯に対するこの政策から、多くを学ばなければと
私は考えます。

◆日 時:8月11日(木)と8月17日(水)
   両日共1)10:00〜 2)13:30〜 3)18:30〜

◆内 容:〜作品上映と高岩仁監督報告〜

◆チケット:一般 1,000円 /学生 500円
       (当日のみ)

◆場 所:総評会館/TEL:03-3253-1771
http://www.sohyokaikan.or.jp/access/index.html#02
<アクセス>
 ・JR御茶の水駅下車徒歩5分
 ・都営地下鉄新宿線小川町駅下車徒歩3分
 ・東京メトロ丸の内線淡路町駅下車徒歩5分
 ・東京メトロ千代田線新御茶の水駅 0分

◆問い合わせ
 「映像文化協会」TEL:045-981-0834